売れないクリエイターにありがちな「負の思考回路」とは何か?

※写真は本文とは関係ありません。 出典: PEXELS
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今年で35歳になるというのに、私の周りにはくすぶっているクリエイターが一定数存在します。

彼らに共通していることは「プライドが邪魔をして、あと一歩の改善ができない」ということです。そんなもったいない人にならないように、自分の体験からお話しできればと思います。

本当にあった痛いクリエイター(?)の話

10年前、私が事務職をしていた頃の話です。

ある日、15名前後の事務所に新人のA君が入ってきました。当時の派遣の職場は、バンドマンや役者の卵といったクリエイターの仕事で成功を目指す人が多くいました。A君もまた例外ではなく、自称シナリオライター。

ある日、仕事が一段落した雑談タイムに事件は起きました。

同僚女子「A君、シナリオライターを目指してるんでしょ? 好きな作家とかいるの?

A君「いや、僕全然本とか読まないしドラマも見ないんですよ。」

同僚女子「いやいやいや、それで作家って無理がない?」

A君「いやぁ、妄想の中でどうにでもなるかなぁって思うんですよね。」

同僚女子「いやでもさぁ、読書してれば面白いネタとか知らない言葉とかたくさんあるじゃない?妄想だけはキツいでしょー(呆れ気味)。」

A君「なんか本とか読むと自分が汚れる気がするんですよ。自分の中の純粋な妄想が・・・」

同僚女子「ごめん、しないわ(棒読み)。」

職場全員「絶句」

A君「僕、自分が死ぬ時の妄想をよくするんですよ。僕、ラベンダー畑でナイフで刺されて死ぬのが夢なんです。綺麗じゃありませんか?」

その時でした。

「いいかげんにしろバカヤロー!!!くだらねーこと言ってないで仕事しろ仕事!!ラベンダー畑で刺されたい??2時間サスペンスでよくありそうじゃねーか。」

うん。それ「金田一少年の事件簿-FILE13 怪盗紳士の殺人」の犯人の末路ですね。 ※20年近く前のネタです。

いつも仏のように穏やかで怒りもしない上司が血相を変えて怒鳴ったものだから、同僚全員がフリーズ。何してくれてんだよ…。

その週、彼はあっという間に職場を去りました。なんだったんだあのコントは…。

願わくば、彼がウケを狙って失敗したのだと信じたい。しかし、あっという間に職場を去ったことを考えると、彼のプライドはズタズタになったのでしょう。彼がまだ若かったのが唯一の救いです。あの後勉強して少しでも成長していることを願いたいです。

メジャーを否定する人は、ありきたりなものを作る

さて、このエピソード。クリエイターで生きていこうと思ってる方たちははたして笑えますか?少なくとも私の周りには、A君と同じ思考回路を持つ自称クリエイターが30代半ばでも存在します。彼の例は極端ですが、ミュージシャンに置き換えるとこんな人たちです。

  1. 評価の高い音楽や流行を批判せずにはいられない
  2. 「洋楽しか聴かない宣言」、「邦楽しか聴かない宣言」
  3. 変わり者だと言われていることを公言
  4. 無知だからこそ創り出せる味があると信じている

批判精神は大事です。特に多感な10代から20代前半にかけては。ただリミットは最高でも25歳くらい。

それは自分のアイデンティティを確立するためのものであって、作品をクリエイトする上で必要な精神とは別物です。仮に初期衝動のみで良いものができたとしても、後が続きません。

上に挙げたような思考は裏を返せば次のようになり、自分に跳ね返ってきます。

  1. 評価の高い音楽や流行を批判せずにはいられない → 売れているものは全て、既存の流行に対抗するものとして出てきたことを理解していない
  2. 「洋楽しか聴かない宣言」、「邦楽しか聴かない宣言」 → 自分の興味の範囲を限定する→同業から守備範囲の狭いヤツだと思われる(これは本当に損)
  3. 変わり者だと言われていることを公言 → 変わっているかどうかは、受け取り側が決めることに気づいてない
  4. 無知だからこそ創り出せる味があると信じている → インプットが少ない人間は、無意識に摂取した情報(街中の有線など)からしか生み出さないので、結果的にありきたりな作品になる

もうこればかりは、周りの理解ある人間が指摘するしかないのですが、大体彼らのプライドが邪魔をして聞く耳を持ってくれないのが現状です。下手をすると、彼らが属する狭いコミュニティから嫌みの応酬が飛んできます。

この状態の彼らはもう「負の思考回路」から抜け出すのは不可能です。いつまでも仲間内だけで楽しくやっていればいいと思って放っておきましょう。

対して人気のクリエイターの皆さんは、メジャー、アングラに関わらず、面白い部分を拾い集めるのが上手です。ミュージシャンの方だと、アイドルからフリージャズまで興味の幅が本当に広い。彼らは人にも芸術にも壁を作らない印象があります。フラットな視点でアンテナを張ってネタ探しをしています。そのインプット情報のストックを意外な形で組み合わせたり、微妙な変化をつけたりすることから、オリジナリティ溢れるオルタナティブな作品を生み出しています。

王道を崩すには、王道を知るより他ない

ジャズを例に考えてみます。ジャズのインプロビゼーション(即興演奏)は、不協和音でぐちゃぐちゃに聴こえる部分があります。あれは楽器の基礎知識と経験を積まないと簡単にできる芸当ではありません。

不協和音に聞こえているものは、実はしっかりと曲の雰囲気に合わせています。それには、楽器のどの辺りを触れば曲に合った不協和音が鳴るのか、演奏者は和音の基礎と経験の上で知っています。つまり、知識のない人間には雰囲気のある不協和音は出せないわけです。一見わけがわからないような奇をてらう作品にしても、「基礎を知っているからこそできる」ということになります。

斬新なアプローチやオルタナティブな作品は、王道の作品や基礎的な積み上げの一部を崩すことで生まれます。にも関わらず、負の思考回路のクリエイターはまずメジャーカルチャーの批判から入ります。ヒットしている作品には、わかりやすさの裏に必ず意外性が隠されています。音楽なら、コード進行、曲展開、歌詞の乗せ方などです。そこに気づかないのはとてももったいないことではないでしょうか。

流行に左右されず斬新なものが作れる人間は、よっぽどの天才でない限りまずいません。

今は便利な世の中になったもので、自分が考えたアイディアをためしに検索してみると、大体やり尽くされていることがわかって思考の浅さを思い知らされます。

個人的な話ですが、私は10年ほど前から、ポストロックという少々マニアックなジャンルのバンドを趣味でやっています。結成当時、メンバーと「ポストロックアイドルが出てきたら斬新じゃね?」と冗談で話していたのですが、最近になって本当に出てきたので驚きました。(本当はこの話をしたくてウズウズしてます)

「このアイディアは斬新かも!」などと自分の思いつきに気を良くしていても、大体考えることはみんな似たり寄ったり。そんなもんです。

だからこそ、メジャーな文化を理解する力と、表現するための引き出しの多さを持ち合わせていないと、王道を崩すことはできないんです。別に流行しているものが嫌いでもいい。ただそれがヒットする理由を考える力くらいはないと、いつまでも「負の思考回路のクリエイター」のままです。

「評価もされなくていい」「自分が好きだからやってる」なら構いません。「評価をされたい」「売れたい」と考えるのであれば、せめてメジャーシーンを「ライバル」ととらえ、その「敵」を知るくらいの覚悟はほしいものです。