神乃木です。お久しぶりです。
少し前から同人関係での音楽制作は控えめにしていまして、ちまちまと小さなお仕事をしているのですが、最近導入したプラグインで結構優秀なものがありましたのでレビューをしてみたいと思います。
今回レビューするのは、VI Labsが出している「Ravenscroft 275」(レーベンスクロフト275)というピアノのサンプリング音源。
このピアノ、ジャンルフリーであちこちに使える上、完成度が非常に高くてお気に入りのVSTiになってしまいました。
今回はこの「Ravenscroft 275」のデモつきレビューと、他プラグインとの聴き比べをしていきたいと思います。
まずは聴いてみよう! Ravenscroft 275でピアノソロ
ではさっそく聴いてみましょう。Cubaseに入っているループを簡単に加工してみたものです。
私は最初このプラグインの演奏を聴いた時、「えっ、ファツィオリ? スタインウェイ? どこ??」と混乱したものです。なんとなく響きはイタリアのピアノっぽい感じもしますが、どことなくスタインウェイのようにも聞こえます。不思議な音です。
もう一つ行ってみましょう。こちらもループの加工になります。低音から高音までしっかり出ているほか、ベロシティによるばらつきも少なく、スムーズに演奏しているのがわかりますね。
個人的な感想ですが、Ravenscroft 275は、ガチガチのクラシックで攻めるよりも、ポップスやジャズ等の近代音楽にかなり使えると思います。とはいえクラシカルが苦手なわけではありません。グランドピアノとしてどんな場面でも使える音だと思います。
Ravenscroft 275の機能、UI、使い方
Ravenscroft 275はUVI Workstation(フリー)で動作するプラグインで、プラットフォームを選ばずに動作させることができます。
起動すると出てくるのは上記のような画面で、見ての通り4つのマイクポジションがあるほか、ダイナミクス、ステレオの幅、ペダルノイズなど、様々な細かい値をコントロールできることがわかります。
ためしにマイクポジを「Side」にしてみたものがこちら。確かに、ステージ上で演奏している様子を聞いているような感覚を得ることができますね。
パラメータの数は多いですが、実際に使うのはマイクポジ、ダイナミクス、ステレオ、トーンぐらいで、他はあまり触らないほうが良い結果になる印象です。もちろん細かく弄りたい人にも、それに応えるだけの機能はついています。本物のピアノの調律のように細かく設定できるのもこのプラグインの強みですね。
純正律、平均律などの設定ももちろん可能です。
※微妙に音が割れているところがありますがご愛嬌。
ちなみに、設定画面左下の「TONE」をいじると(0:13付近〜)、このようにフィルタがかったような音にすることもできます。これなら電子音楽等にも混ぜて使えそうな音ですよね。
鉄板ピアノ音源「Ivory」とクラシックで比較してみる
私がこのピアノ音源を買った動機は、ズバリ「Ivoryの音に飽きた」というものになります。
Ivoryは素晴らしいプラグインですし、悪いものではないです。私もよく使っています。
とはいえ、ありとあらゆる曲で聴くことが多いため、集中的に使ってるとだんだん微妙な気分になってくるんですね。そんなとき、このように少し変わった音を出すプラグインがあると新鮮な気分になれるというのは、音楽制作のモチベーションの一つになるのではないでしょうか。
では、実際比較に入っていきましょう。今回比較するのはショパンの「革命」で、Ravenscroft 275、Ivory German D(要はスタインウェイ)、Ivory C7の3つ。設定値は音量以外デフォルトから変更せず、リバーブはAudio Ease AltiverbのEMT250をセンドで用いました。イコライザーその他は使用せず、マキシマイザーはSlate Digital FG-Xをほどほどにかけています。
まずはIvoryのGerman Dから。いやー、この音ですよ。この音。安心しますよね。特にラスト2:20付近の和音は、まさに「お〜、Ivoryのスタインウェイだ!」って感じがしませんか? この力強くて艷やかで、それでいて繊細さも残す音こそ、Ivoryの利用者が多いことの理由ではないでしょうか。
ではお次はIvoryのYamaha C7です。これまたヤマハらしい音がよく出ています。ヤマハのピアノは何といっても低音の響き方が超特徴的です。とはいえ、MOTIF系のヤマハ謹製ピアノはともかく、IvoryのC7についてはその特徴が若干強く出過ぎていることもあり、実際の音楽制作ではあんまり使えなかったりもします。特にベロシティカーブが荒っぽいため、ソロで聴く分には良いのですが、他の楽器とよく干渉する自己主張の多い音だったりします。ちょっと残念。
最後はお待ちかねのRavenscroft 275です。再生した瞬間、きっとあなたはこう思うでしょう。
「あれ、音が篭っている?」と。
いいえ、違います。
Ivoryが低音を切りすぎているのです。
よーく注目して聴いていただきたいのですが、高音部はしっかり出ています。そして低音部もしっかり出ています。Ivoryの方に戻ってみると、低音が結構カットされていることに気づくのではないでしょうか。その分出音は艷やかになるものの、より本当のピアノの響きに近いのはVI Labsの方だと感じます。
あわせて、ピアニッシモからフォルテシモまでスムーズに音が移動していることにも注目です。流れるように音をコントロールできるので、きっと演奏する人からすれば「弾きやすいピアノ」といった印象を受けるのではないでしょうか。
……とはいえ、やっぱりクラシカルはスタインウェイのほうが良いような気もします。実際弾かせてみると「ちょっと苦手かもなぁ」という感じはしますね(汗)
VI Labs Ravenscroft 275の価格、セール情報、アクティベーションなど
Ravenscroft 275は、True Keysで有名なピアノ音源を数多く出しているVI Labsから販売されています。
一番簡単なのはBest Serviceから購入することでしょう。ユーロ決済時のExcl.VATで167ユーロなので、お値段は約2万円。セールの場合は50ドル値下げされます。
セール期間はブラックフライデー(11月末)、サマーセール(8月半ば)の2つを確認済。買うならこの期間がオススメといえますが、とはいえ50ドル(25%オフ)なのであまり気にしすぎないでもいいかもしれません。
アクティベーションはUVI Workstationに準拠するため、iLokでの認証が必要です。代理店から送られてきたシリアルコードをiLokに投入し、UVIアカウントに紐付けをしておきましょう。普段からプラグインを買い慣れている人であればそれほど難しくはありません。
日本語サポートが欲しい場合には、国内でもいくつか販売されているみたいです。
ちなみにVI LabsではIvoryと同じようなラインナップでGerman Grand(要はスタインウェイ)、Italian Grand(要はファツィオリ)も出していますので、気になる方は公式サイトでデモを聴いてみましょう。
まとめ
以上、「みんなが使ってない製品を使ってる俺TUEEEEE」的な厨二病モチベーションで購入したRavenscroft 275が意外といい感じだったのでレビューをしてみました。
電子音楽ならともかく、ピアノ音源は何をメインにするかでその人の作風がある程度決まってくるという悲しい現実があったりもします。そんな「作風の固定化」を防ぐためにも、ピアノ音源に対する選択肢はいくつかあったほうが良いかもしれませんね。
ちなみに、Ravenscroft 275というピアノですが、実機はどうやらアメリカで作られているようです。ドイツじゃないんかい。(ピアノメーカーのサイトはこちら)ちなみに実機の金額は28万ドル(約3000万円)とものすごく高価。というかそれだけあったらベーゼンドルファーのModel 290 imperialとか、ファツィオリのF308とかスタインウェイのD-274とか買っちゃいますよね。それぞれ2000万円少しなので、Ravenscroft 275はかなり強気の価格設定。
とはいえ、新興のピアノメーカーであまり知名度・生産数もないことを考えると、高めの値段になるのは仕方ないのかもしれません。その分、DTMで使えるプラグインとして販売していくわけですから、こういった売り方もアリといえばアリですね。
まあいずれのメーカーのピアノにしても、実機を買うとか来来世ぐらいの課題だと思うので、とりあえず私はプラグインで満足しておこうかと思います。
久々に音屋っぽい記事を書いてしまいましたが、今日はこのへんで。