前回の記事(この曲を作るのに何が必要か、プラグインと金額と作例をズバリお教えします)において、「打ち込みDTMはいかにお金がかかるか」ということを散々説明しつくしました。
あの記事の通り、DTMはすべからくお金がかかるのでしょうか? 高品質な曲を作るには高いプラグインを買う必要があるのでしょうか?
いいえ。そんなことはありません。
そんなわけで、今回は「お金のかからないDTMをやろう」という趣旨の下、持っておいて絶対に損しないフリーのプラグインをご紹介したいと思います。
とはいえ、Synth1やDSK Musicの各プラグイン、W1などの有名ドコロはご存知の方も多いと思いますので、ここでは若干マイナー(?)だったり、新しめのプラグインを中心に紹介してみたいと思います。
フリーのインストゥルメントプラグイン7種類
まずはVSTiプラグインからのご紹介。
VS Upright 1
米VERSILIAN STUDIOSが提供している、アップライトピアノのVSTiです。アップライトピアノらしい響きとしっかりとしたダイナミクスレンジ、音質ともに十分なクォリティです。ベロシティを高めで鳴らすと音が突然大きくなるベロシティカーブの取り扱いに若干難有りなのと、Kontaktで読み込めるnki形式のインストルメントはプラグイン版より音がこもって聞こえるので注意が必要です。
配布元のサイトでは「非常に軽いスケッチ用のピアノとして作っています」と英語で書かれています。とはいえ、場合によってはスケッチではない本番でも使えるクォリティだと思うのですが、いかがでしょう?
- デモ(SoundCloud)
- 配布元URL:http://vis.versilstudios.net/upright-1.html → 右上の「Select Version」でWin/Macを選択。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi Windows & Mac OSX
Ample Guitar M Lite II (AGML II)
次は、中国・Ample Soundのギター音源の紹介です。Ample Soundでは「Ample Guitar / BASS」シリーズのベース・ギター音源を販売していますが、そのフリー版のアコギがこのプラグインです。この手のプラグインを見るとどうしても某RealGuitarを連想してしまいますが、クォリティは優劣つけがたい良い音を出してくれます。
フリー版は製品版と比べて、①使用できる弦・フレット ②サンプリングされているラウンドロビンの数 ③サンプリングレートで差があるものの、それ以外は製品版と同じということで、安定した音色を出してくれます。
バッキングに役立つストラムモードでは、キースイッチを8つ切り替えることで色々なパターンを演奏できるほか(キャプチャ参照)、曲調に合わせたパターンリストも多数用意されているため、かなりの即戦力になります。
ベース音源もいい感じですので、気に入ったら是非フリーのAmple Bass P Liteも試してみてくださいね。余談ですが、弾くと弦がブルブル震えるギミックがあるGUIは個人的に好きです。
- デモ(YouTube)
- 配布元URL:http://www.amplesound.net/en/download.asp → ページ中程「ABP Lite(ベース)」「AGM Lite(アコギ)」でそれぞれWin/Macを選択。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi / RTAS / AAX Windows & Mac OSX
MT Power Drumkit2
某EZ Drummerを彷彿させる画面を持つドラムキット音源です。キットは潔い1種類のみで、一般流通しているプラグインのように色々と付け替えて遊ぶことはできません。しかし、ロック系・POPS系では間違いなく活躍できるであろうサウンドは、一点集中でしっかり作りこまれている印象を受けます。
なによりも特筆すべきは、ドラムキットとしてのクォリティもさることながら、DAWにペーストできるMIDIパターンの量です。GM規格(死語?)で作られているドラムパターンですので、他のプラグインに差し込むことだってできます。現場の即戦力になるのは間違いないと思います。
- デモ(YouTube)
- 配布元URL:http://www.powerdrumkit.com/ → ヘッダーメニュー「Download Free」でOSを選択。無料ですが、インストール後にはアクティベーションが必要なので、コードを発行できるダウンロードページを開いたままにしておきましょう。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi Windows & Mac OSX
Sonatina Symphonic Orchestra
なんとオーケストラ音源がフリーで手に入る時代になりました。ラインナップはバイオリン、ビオラ、チェロ、ダブルベース、トランペット以下略と一通り揃っており、この「Sonatina」シリーズだけで一通りのオーケストラが鳴るようにできています。
個人的には、ピアノは優秀、木管系はいい感じ、金管系は普通、パーカッションは使える、弦はちょっと昔のシンセっぽいかな……? という印象を受けます。にしても、これだけの種類の音を無料で使えるのはとても有り難い話です。まずはデモをお聴きあれ。
- デモ(YouTube)
- 配布元URL:http://bigcatinstruments.blogspot.jp/2014/09/bigcat-maize-vstis.html → 開発者の記事です。記事内に各楽器ごとのDLリンクがあります。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi Windows & Mac OSX
SampleTank3 Custom Shop
マルチティンバー音源(これも死語?)も無料で手に入る時代になりました。こちらは超定番中の定番、SampleTank 3 Custom Shopです。
インストゥルメント数は30種類で、ピアノ、ギター、ベース、ドラムといった基本楽器に加え、ストリングス、ブラス、オルガンなども一通り付属しています。音のクォリティは「SampleTank」シリーズ由来のまとまったサウンドで、オケにしてもバランスよく鳴ってくれます。アーティキュレーションも豊富なほか、音色のエディットも可能なため、かなり楽しめるプラグインです。
また、「Custom Shop」のアプリを開くことで、プラグインをオンラインでどんどん買い足していける仕様にもなっており、無料版で物足りなくなってきた人は徐々にステップアップできますね。
なお、ダウンロードにはIK Multimediaのアカウントが必要です。また、Sample Tank 3をDL後、マイページから「Sample Tank 3 Custom Shop」を追加でダウンロードしないと音がピアノだけになってしまうので(私がハマったトラップです)、そこだけは注意しましょう。
- デモ(YouTube)公式デモではないのですが、10分間でまたたく間にトラックが完成していく素晴らしい動画です。
- 配布元URL:http://www.ikmultimedia.com/jp/products/sampletankcs/ → サイドバーの「Download」からダウンロードしましょう。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi / AAX Windows & Mac OSX
Alter/Ego
サンプラー・音声処理の老舗、Plogueから、無料版ボーカロイド……は少し言い過ぎかもしれませんが、歌ってくれるVSTiの紹介です。
英語はもちろんですが、日本語も喋らせることができます。使い方はいたってシンプルで、Text部分に歌詞を入れて好みのNoteを鳴らすだけです。ループさせたり、フレーズをCCで移動させたりできるので、サンプラーのように使うこともできますね。
若干無機質な声ですが、それはそれで味がある。エレクトロ系の曲を作っている時の声ネタに飽きてきたら、ぜひ彼女を使ってあげることも検討してあげてください。
- 参考作品: lost love(日本語・ニコニコ動画) 英語デモ(YouTube・歌詞がひどいので注意)
- 配布元URL:http://www.plogue.com/products/alterego/ → 画面下部の「Download」からダウンロードページに飛べます。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi / AAX / RTAS Windows & Mac OSX
SynthMaster Player FREE
トルコのKV331 Audioが出す有名シンセプラグイン「SynthMaster」(当サークルメンバーねこむろも保有しています。評判はとても良い)からエディット機能を取り払ったラインナップが、こちらの「Player」シリーズになります。
Playerでは600種類のプリセットが用意されており、29ドルで購入が可能です。更にそれの廉価版がSynth Master Freeとなっており、プリセット数は150個でお値段は無料。
DTMをやっているとはいえ、「シンセのエディットはパラメーターが多くて苦手……」という人は少なくないと思います。そんなとき、無料でも150個のプリセットがあるこのプラグインがあれば、少しだけ幸せになれるかもしれませんね。
ちなみに、起動後に上記SSのスキンにするには、左上の「synthmaster」のロゴを右クリックし、「change global skin」から「Development Skin」を選ぶと変更できます。ただし、Developmentなだけあって、こちらのスキンから別なスキンに戻すためには、ロゴの当たり判定がかなり厳しくなっています。「BROWSER」の左上あたりをクリックしているとメニューが出てきます。
- 参考作品:SoundCloud – SynthMaster 2.7 Factory Presets (FREEではないプリセットもありますがご容赦)
- 配布元URL:http://www.synthmaster.com/synthmasterplayer.aspx → ヘッダーメニュー「downloads」から、OSを選んでDL。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VSTi / AUi / AAX Windows & Mac OSX
フリーエフェクト3種類
インストゥルメントを7つも紹介したので、エフェクト枠が3つになってしまいました。厳選していきましょう。
TDR Nova
Tokyo Dawn Recordsより、イコライザーの真打ち登場です。フリーとは思えないGUIの操作性と確実なサウンド、マルチバンドコンプ機能、アナライザつき……と、市販のEQにも負けず劣らずの良いプラグインです。「EQはDAW付属のものでいいか……」と済ませている人には、是非オススメしたいですね。
質の悪いEQを使うと位相が崩れるとよく言われますが、このEQに関しては位相の崩れがかなり少ないようで(個人の感想ですが)、マスタートラックの最終仕上げにも使えるのではないか……? と思えるレベルです。ちなみに、マスタリング向けには50ユーロで「SLICK EQ」というプラグインを販売しています。一度Pro-Qあたりとの比較をしてみたいなぁと思います。
ちなみに、配布元の「Tokyo Dawn Labs」はドイツのデベロッパーですので、Tokyoがついていても日本のメーカーではありません。
- デモ:公式YouTube
- 配布元URL:http://www.tokyodawn.net/tdr-nova/ 右下からプラットフォームを選んでDL。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VST / AU / AAX Windows & Mac OSX
Ambience
10年以上前から配布されているフリーのリバーブプラグインですが、配布元のサイトでも書かれている通り、市販されているリバーブプラグインにも引けをとらないクォリティを持っています。
プリセットの数も豊富ですので、ツマミを触らなくてもそれっぽい音をすぐに出すことができ、至れりつくせりといったところでしょう。
フリーのリバーブプラグインといえば、Windows専用のepicVerbも有名ですが、「Ambience」はMac OSX対応(ただしAUプラグインのみ)です。
- デモ:YouTube
- 配布元URL:http://magnus.smartelectronix.com/ 「Full」をダウンロードしておけばOKです。Demoは開発版(?)の模様。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VST / AU Windows & Mac OSX(OSXはAUのみ)
Limiter №6
最後はvladg/soundから無料で使える多機能リミッターのご紹介。リミッターと名がつくものの、メーターがついており、マルチバンドコンプ、M/S処理もこなせてしまう万能選手です。その多機能さ故に、使いこなすまでに少し時間はかかるものの、この品質の高さでフリーは絶対に損がありませんし、マスタリングの最終段に使うこともできるかもしれません。
流石に市販の製品のように「どんな音でも音圧を稼げる!」といった類のプラグインではないので、ダメなミックスを放り込んでひどい値を設定すると(キャプチャのように)音は割れますが、きちんとミックスを作りこんであげれば十分な戦力になるでしょう。
ちなみに、スイッチのオン・オフはノブの真上に当たり判定があるのでそこだけ注意です。
- 参考動画:使い方動画(ニコニコ動画・日本語)
- 配布元URL:https://vladgsound.wordpress.com/plugins/limiter6/ ヘッダー「Downloads」から、使用中のOSに合わせてDL。
- 対応OS:32-bit / 64-bit VST / AU Windows & Mac OSX
まとめ
いかがでしたでしょうか? 前回私が書いた記事(この曲を作るのに何が必要か、プラグインと金額と作例をズバリお教えします)では、「DTMにはこんなに金がかかるんだ! 救いがないな!」といった記事を書きましたが、こうやってまとめてみると、フリープラグインばかりでも頑張れるような気がしてきますよね。
前の記事でも言っているとおり、プラグインの価格は作品の良し悪しに影響するものではありませんし、無料だからといって質の悪いプラグインばかり、ということはありません(前の記事の手のひら返しですが……)。
繰り返しになりますが、大事なのは音楽を楽しくやることだと思います。実際、この記事を書くにあたってプラグインを探してはインストールする作業をやりますが、コレは結構面白かったので、これを機に、質の良いフリープラグイン探しを一つの楽しみにしてみるのもいかがでしょうか?
ちなみに、「こんなフリープラグインも使っているよ! 便利だよ!」という方は、ぜひタレコミフォームからご報告くださいませ。次回の記事に掲載させていただきます!