作曲のアイデアに困った時に「参考曲」を用意する理由とその方法

こんにちは、神乃木です。

みなさんは曲を作る時、アイデアに詰まったことはないでしょうか? 特に大胆な編曲をする場合やオリジナル曲を作る場合、締切だけは迫ってくるのにアイデアが浮かばない……といったことは、プロ・アマを問わずあるかと思います。

今回は、そんなアイデア枯渇の一つの対策として非常に強力な、参考曲についてお話をしたいと思います。

そもそも「参考曲」とは何ぞや?

「参考曲」というのは、作曲家や編曲家の一部で使われている用語のことで、文字通り曲作りの参考にするための曲のことです。

この「参考曲」の意味合いは大きく分けて2つあります。

1つめは、クライアントから作編曲家に発注するときに使う場合。これは「こんな雰囲気の曲でお願いします」という手っ取り早い発注方法のことで、作編曲の現場では結構メジャーです。

特にBGMなどのインスト系の音楽は、予算(と人的コスト)は割けないものの権利関係はしっかりしておく必要があるということで、「この曲を出来る限りパクってください」なんて発注が来ることもあります。

2つめは、作編曲家自身が曲を作るときに参考にするもので、今回はこちらの意味で「参考曲」を使いたいと思います。1つめはクライアントから指定される受け身の参考であるのに対し、こちらは作編曲家自身が決める能動的な参考になります。

この場合の参考曲はだいたい複数設定することが多く、むしろ1曲だけを参考曲にすることはオススメできません。理由はこれから説明していきたいと思います。

参考曲ってパクりじゃないの? 設定する意味はあるの?

芸術性や個性が重視される音楽の世界では、他人の作ったものを剽窃(ひょうせつ)することに非常に敏感です。

よって、「参考曲」という言葉を聴いただけで拒否反応を示す方も多いかもしれません。

しかし、それは大きな間違いです。

参考曲を設定することにより、曲の方針がブレにくくなる上、逆にオリジナリティを生み出すことができるからです。

そもそも、昨今のコード理論に基づく曲を作っている以上、何か曲を作れば何かの曲に似てしまうことは当然です。

参考曲を何も設定せずに曲を作っていると、意図せずして有名曲に被ってしまう……なんてことがあるかもしれません。

後から「この曲◯◯に似てるよね」と言われるぐらいなら、最初から「似せたい曲」を決めておいて、その曲の丸パクリにならないように調整するほうが生産的だと思いませんか?

それが「参考曲」を設定する意図です。では、具体的な参考曲の設定方法について考えていきましょう。

参考曲を設定する方法

参考曲は要素別に用意すると良いでしょう。この場合の「要素」とは、以下のようなものを指します。

  1. メロディラインとコード進行
  2. リズム、テンポ
  3. 登場する楽器とミックス
  4. 曲の構成

この4つそれぞれを別な曲で設定しておくことで、特定の曲に似すぎない、でも自分好みな曲を作る方向性を定めることができるでしょう。

1.メロディラインとコード進行

メロディラインとコード進行については、複数の曲を用意しても良いかもしれません。Aメロ、Bメロ、サビそれぞれで好きな曲を選んで繋ぎ合わせることができればベストです。

この際注意したいのは、2.で設定するリズムやテンポと異なる曲を選ぶことです。メロディ、コード、リズムが似てしまうと、曲の雰囲気がどことなく元の曲に似てしまうことがあります。

好きな曲をあえてゆっくりなテンポ / 速いテンポで弾いてみて、そこからメロディを抽出していくようなやり方にしておけば間違いはないと思います。

メロディはそのままパクると完全にアウトですので、小節の頭の音だけを取ってきて、原曲と別な方向に振ってみたりする工夫が必要です。

2.リズム・テンポ

リズムというのは曲全体のグルーブ感のこと、または拍子を指します。四つ打ちとか、ハネるリズムとかのグルーブ感、そして三拍子、四拍子などの拍子です。

似たようなメロディでも三拍子から四拍子に変化することで大きく印象が変わることがあります。

例えばクラシックの有名曲の「メヌエット・ト長調」は三拍子ですが、それを四拍子にアレンジした「ラヴァーズ・コンチェルト」は1960年代に世界中で大ヒットしましたね。

優秀なメロディラインは拍子やリズムを変えても綺麗に決まります。慣れていない場合には、「既存の曲のメロディを一旦全部4分音符にした後、適当に音符の長さを変えてみる」というトレーニングをしてみることをオススメします。きっと意外な発見があると思います。

3.登場する楽器とミックス

楽器とミックスも曲を構成する大切な要素です。元ネタがバンド編成の曲でバンド編成の曲を作ると当然元ネタと類似してしまいます。

そこで、例えばバンド編成のものはオーケストラにしてみるとか、電子音楽にしてみるとか、そういった編成を別物に変えてみることが重要になってきます。

その「編成を別物に変える」とき、「ミックスの参考曲」が必要になることがままあります。例えば、作りたい曲がボーカル、ピアノ、ベース、アコギ、エレキ、ストリングスだったときに一番聴き心地の良いミックスと思える曲を参考曲にしておくと、「色々楽器を混ぜてみたけどグチャグチャして困る」といった問題を回避しやすいかもしれません。

4.曲の構成

最後は曲の構成です。これは比較的簡単ですね。

J-POPだと①イントロ ②Aメロ1 ③Aメロ2 ③Bメロ ④サビ ⑤サビのお尻 ⑥間奏 ⑦Aメロ3 ⑧Bメロ ⑨サビ ⑩サビのお尻2  ⑪間奏〜ソロ ⑫Cメロ/Bメロ ⑬大サビ ⑭アウトロ……といった展開がよくある展開です。

ちなみに「サビのお尻」というのは、一通りサビを繰り返した後にサビを終わらせるための2〜4小節程度のブリッジで、便宜上そう書いています。例えば、サザンオールスターズの「波乗りジョニー」のサビの終わりでいうと、「人は彷徨う 恋は陽炎 …嗚呼蘇る」がその部分です。要するに次の間奏やアウトロに繋げやすくするためのサビの付属品みたいなものですね。だいたいは終止するドミナントモーションにしておくのが無難だったりするのですが、その辺を書いてると長くなるので省略。

とにかく、「AメロBメロサビ」といった大雑把な区分ではなく、「サビのお尻」「サビ前のブリッジ」といった具合に曲の要素を細かく分解して比較するのが良いでしょう。

このように曲を分解してみることで、1のメロディやコード進行も色々な曲から取り入れやすくなる、というメリットもあります。

参考曲が見つからない場合には?

ここまでで、参考曲の使い方について説明してきました。

しかし、こんな方もいらっしゃるでしょう。「そんなに参考曲知らねえよ!」という方々。

解決方法は一つです。とにかく色々なジャンルの曲を大量に聴きまくることです。曲を聞く時には、メロやコードや歌詞だけでなく、楽器の編成や構成についても注意して聴いてみましょう。

iTunesのプレイリスト機能などで、だいたい似た雰囲気の曲をグルーピングしておくことも有効です。

「2番でAメロの後間奏に飛ぶ曲はありますか?」と訊かれた時、「FLOWの『COLORS』やシドの『嘘』」といった答えが出てくる。「Bメロに下降進行が使われている曲はありますか?」と訊かれた時、「樹海の『あなたがいた森』、谷本貴義の『君にこの声が届きますように』」といった答えが出てくる。

そんな感じで、音楽の脳内辞書を作っていくようなイメージで音楽をたくさん聴くことが、上記のような参考曲ベースの作曲を手助けしてくれることでしょう。

まとめ

以上、参考曲を用意する意義とその使い方、用意する方法について書かせていただきました。

もちろん作曲の方法は人によって本当に差があります。コードベースにするのか、メロディベースにするのか、はたまたその両方か……人によって千差万別です。

ただ、曲を作っている人に対して誰にでも言えることは、「たくさんの音楽を聴くことは絶対にプラスになる」ということです。

当サイトで砂田さんが書いている「売れないクリエイターにありがちな「負の思考回路」とは何か?」の記事でも、

インプットが少ない人間は、無意識に摂取した情報(街中の有線など)からしか生み出さないので、結果的にありきたりな作品になる

とあります。私もこれに大賛成です。1をアウトプットするなら10、20はインプットするくらいの気分でいないとなかなか思ったようにモノは作れないと思います。

参考曲というのはパクりではありません。自分が何となく作りたい曲があるとき、その実現を手助けしてくれる先人たちの偉大なる軌跡です。

この軌跡をしっかりと土台にしながら、自分の本当に作りたい音楽を見つけていきましょう。

ではでは。