こんにちは。砂田です。
引き続きクリエイターのあり方や自身の体験、具体的なエピソードなどをどんどん紹介していきます。よろしくお願いいたします。
さて、前回「クリエイターの負の思考回路」というテーマの中で、売れているクリエイターの価値観や、情報のインプット方法の特徴について触れました。今回はその部分についてもう少し詳しく掘り下げてみましょう。
売れるクリエイターと売れないクリエイターの違い
そもそも「売れるクリエイター」とはどういう人たちでしょうか。一言で表すと定義は少々曖昧になります。
- 稼いでいる
- 有名である
- 上記の両方とも持ち合わせている
等々、とらえ方は人それぞれでしょう。このコラムではわかりやすく「特定の分野で信頼があり、商業的な需要がある」ということに重点を置きましょう。
対して「売れないクリエイター」はその逆で「信頼も需要もなく、売れる努力をしていない人」という前提で話を進めていきたいと思います。趣味の範囲で活動している人は今回は除外します。
売れるクリエイターのコミュニケーション資質
前回のコラムで「人気のクリエイターの皆さんは興味の幅が広い」という内容に触れました。では有名クリエイターはその「興味の幅」をどのように活かしているのか、三つの事例をもとに説明していきます。
いいクリエイターは同業者を褒める。しかも説得力がある。
私がバンドでドラムを担当していた頃、「Rythm & Drums Magazine」(リットーミュージック)をほぼ毎月購読しておりました。技術的な勉強が目的であったことはもちろんですが、目当ては日本のトップドラマーである沼澤尚さんのコラムでした。
彼のコラムは基本的に、その月のおすすめCDのレビューです。第一線で活躍しているだけあり、ランキング上位の作品からマニアックなものまで、ジャンル問わず幅広いレビューとなっていました。一番の特徴は、批判をまったくしないこと。単純に自分がいいと思った作品の素晴らしさを、ドラマーの観点からわかりやすく説明してくれます。
さらに、ドラマーにも関わらず、打ち込みが主体の作品などもしっかりと評価します。ジャンルや世代を問わず上から目線の批評をせず、ミュージシャンに敬意を払っています。ここから彼の音楽に対するスタンスが、とてもフラットで懐の深いものであることがうかがえました。第一線で活躍しているクリエイターの感性を見習おうと思った最初のきっかけはこれでした。私も当時CDショップでレビューを書いていたため、大変参考になりました。
前回「自分の興味の範囲を限定する→同業から守備範囲の狭いヤツだと思われる」ということが損をすると書いたのはこういうことです。彼のようなさまざまなジャンルに寛容な姿勢は、同業のクリエイターから信頼を得られます。
いい意味で「図々しさ」を持っている。
私がLIVEハウスで活動を始めた頃の話を例に説明します。
LIVEハウスの楽屋はとても緊張感の漂う場所です。リハーサルで他のバンドの圧倒的な実力を目の当たりにすると、それだけでその日のモチベーションが下がることもありました。そんな状況下で、気分を上向きに変えてくれたのは、他のバンドとのささやかな交流だったりしました。その際、自分の興味の幅が広いとプラスになることが多いと感じたものです。
興味の幅が広がると、他人が興味を持っているものに対しての理解も深まります。音楽好きが集まって会話をしていると、よく「あれも聴くんですか?守備範囲が広いですね。」といった流れになります。この「守備範囲が広い」ということは、いろんな方面へ自信を持って足を踏み出す原動力につながります。
対バンに守備範囲が広いバンドがいると、こちらの意外な面を見つけて話しかけてくれることがあります。パフォーマンス、歌詞、音作りなど、何か共感できそうな部分があれば話に花が咲き、交流のきっかけとなります。
LIVEハウスに出始めて二回目くらいの頃、いちばん動員があるバンドのドラマーに気に入ってもらい、イベントのお誘いを受けました。音楽性は自分たちとは異なるジャンルでしたが、そんなことは全く気にせず、同じバンドマンとして親切にしてもらったことを覚えています。最初はそんな彼のことを、フランクで少し図々しくも感じました。しかし接しているうちに、彼らはバンドの初心者・ベテラン問わず、面白いと感じた相手に対して、分け隔てなく接していることがわかってきました。
つまり守備範囲が広いと、多方面に交流を広げるコミュニケーション能力も高くなる。そうすることにより、相手を不快にせず、多種多様なコミュニティに踏み込んでいく「いい意味での図々しさ」が身に付きます。彼はその典型例だといえるでしょう。このバンドが安定した動員を保っている理由がわかった出来事です。
彼は現在、有名ミュージシャンのサポートドラマーとして活躍しています。
アウェイでの戦い方を知っている
次は、最近地方のロックフェスからもオファーが来る、シンガーソングライターのK先輩の話をしましょう。
以前私が経営していたカフェで、詩や短歌の朗読、弾き語りなどを交えたイベントを行ったことがあります。K先輩の知り合いは主催した私のみ。他はほとんど文芸を趣味としている方でした。朗読が続いた後でK先輩の出番になった時、彼の冒頭のパフォーマンスには驚かされました。
「今日はお呼びいただき、ありがとうございます。皆さんの朗読を聴いていて、すごくかっこいいなと思ったので、僕もやってみたくなりました。」
そう言ってK先輩は自分が好きな文章をスマホであっという間に検索し、詩の朗読に慣れている他の出演者も圧倒する熱量で朗読をし、一気に会場の空気を自分のものにしました。その後の弾き語りLIVEももちろん素晴らしく、観客の皆さんにも大好評でした。
この文章だけでは、K先輩はその場に媚びたように感じるかもしれません。しかし、そうではありません。K先輩は「アウェイの場で自分に興味を持ってもらうためのパフォーマンスを即座に判断した」と考えるのが正しいと思います。
アーティストにとっていちばんつらいことは、「批判されること」ではありません。「興味を持ってもらえないこと」がいちばんの悲劇です。LIVEの出だしで興味を持ってもらえないと、観客はあっという間にフロアから去ります。だからこそ、最初に観客の心を掴む能力は何よりも重要です。K先輩の例は、ボーカリストと詩人の「詩を声に出す」という共通点を即座に見出し、そこに自分のアーティストとしてのカラーをプラスしたのです。
K先輩がこのような行動をとれるのは、長年の経験もありますが、いつもさまざまな分野からアーティスト活動の糧となる要素を貪欲に吸収しているからです。アウェイでのコミュニケーションのとり方の見本のようでした。
「迎合するわけではなく、その場にいる人が共有する感覚を探る力」
それを持っているクリエイターはアウェイでも動じないということを教えてもらったLIVEでした。
売れるクリエイターのブランディング能力
せっかくアーティストとしての感性やコミュニケーション能力を磨いても、肝心の自分たちを客観視することができなければ元も子もありません。最後の章ではクリエイターの売り込み方について説明します。
作品やステージの対価を自覚している
クリエイターにとって、創ったものを発表するという行為はとても勇気がいります。自分の創作物に対して自信がないと、なかなか一歩が踏み出せないものです。踏み出せても、ついついハードルを低く設定してしまうことが多々あります。バンドの場合で言えば、手売りのチケットの値段を下げるなどの行動です(ここには「LIVEハウスのノルマ高すぎ問題」が絡むのですが、今回は割愛します)。
しかし、その行動は果たして自分たちのためになるのか、冷静に考えてみてほしいのです。
たとえば、家電量販店で家電を買うとしましょう。商品を開発したメーカーの営業が、自信のない様子で商品を売っていたらどうでしょう。
「この商品の性能はこの程度なので、○○円でいいので買ってください。」
と言われたところで、その商品を買いたくなるでしょうか。安かろう悪かろうなものを買う気にはなりませんよね。芸術の世界も同じです。これは売れないクリエイターが陥りやすい負のスパイラルの一つです。一度価値を下げてしまうと、元に戻すことは難しい。一度下げてしまったチケット代を元の値段に戻すのは、ファンに対しても失礼な行為です。
対して、売れているクリエイターは
「いいものを創りました」「いいLIVEを見せます」
と自信を持って自分たちを売り込みます。そのくらいの自信を見せてもらえなければ、受け取る側は信頼の気持ちを持てません。少なくとも、有名クリエイター陣と音楽活動をしているミュージシャンの方は、LIVEやイベントの告知も上手です。出演者の情報も含め、お客さんに損をさせないという意気込みが感じられます。
「このアーティストがこれだけ勧めるイベントなんだから面白いに決まってる!」そう思わせることに長けています。
チケット代、時間、交通費、全てに見合った対価になることに自信がないと、どうしても弱気な行動に出てしまいます。それは言い換えれば、自分たちが値段相応の作品やLIVEを提供できるレベルではないということです。もしそう考えているのであれば、今の自分たちの実力に見合った値段で発表ができる会場を探してイベントなどを行い、自分たちの価値を高めていくことが大事です。
安売りせずに仕事を捕まえるには
自分たちを安売りせず活動の場を広げていくためには、信頼できる同業の輪を広げていくことです。LIVEを例にとっていうと、観客にいいステージを見せるのは当然ですが、さらに重要なのは、
「対バンのバンドをファンにする」
ということです。同業にファンを増やすことによって、イベントに誘われる機会もぐっと増えます。
バンドの場合、通常でブッキングされるLIVEに出るよりは、仲の良いアーティストのイベントに数多く出演する方がチケットノルマも安く済みますし、動員も多く見込めます。やみくもにLIVEの本数をこなすのではなく、プラスになるイベントを選び、無駄な出費はしないことです。売れるクリエイターは活動経費の管理も徹底しています。
理想は、最初からギャラをもらえるレベルまで自分たちの価値を高めることでしょう。その方が最初からクオリティの高いステージを提供する姿勢で活動に臨めます。それで観客を満足させられないのであれば、まだそのレベルには達していないということです。
自信を持てずに弱腰の状態で活動していると、悪い大人につけ込まれるケースが多々あります。10年くらい前の渋谷のLIVEハウスには
「君たちは才能があるから○○万でCDデビューをさせたいと思う」
と声をかけてくる悪徳レーベルの大人が頻繁に出没していました。負のスパイラルに陥っているバンドに取っては甘いささやきですね。しかし、このほとんどは罠です。実際は法外な料金でレコーディングをして搾取した挙句、プロモーションもまったく行わないような会社が多々存在します。
上で述べたように、自分たちの価値を自覚していない隙だらけの「売れないクリエイター」には、あっという間にこの類いの人間が近寄ってきます。いいカモにされないためにも、幅広い視点から自分たちの価値を見つめる能力が必要になるのです。
「売れるクリエイター」は「仕事のできる社会人」と同じである
ある程度の社会経験を積んできた人にとっては当たり前の話になりますが、芸術を売るクリエイターも、それでお金をもらう以上、他の社会人となんら変わりありません。自分たちの作品を売るということは、自社製品を売り込むことと同じです。そのために必要な能力は突き詰めれば同じです。ビジネスマンに当てはめると、こうなります。
- 同業者を褒める→競合の魅力を把握している
- いい意味での図々しさをもっている→売り込む相手と渡り合うための能力に長けている
- アウェイでの戦い方を知っている→興味のない人へのプレゼン能力を持っている
- 作品の対価を自覚している→消費者目線で商品を見ることができる
- 安売りをしない→商品の価値を把握している
これは、作品を消費する側に媚びろという意味ではありません。
自分たちの作品を売り込む際に、「どんなポイントを押さえれば魅力や価値が伝わるのか」を意識すべきだということです。いくら作品の完成度が高くても、売り込む能力を磨かない限り、よほどの運がなければ売れることは難しいでしょう。もちろん、今回述べてきたことの全てを備えていなければいけないということではありません。ニッチな需要を狙っている方は、アプローチの方法も変わってくることでしょう。多くの人に評価を求めるのであれば、プロモーション能力を高めることは必須条件です。
もし周りに「売れない」「評価されない」と嘆いているクリエイターがいたら、大抵の場合は今回説明したような努力を怠っている人がほとんどです。(正直、自分もバンド活動をしていた頃はまったくできていなかった・・・)
今回の話は売れるための心得のほんの一部ですし、これをやったから売れるというわけではありません。あくまで成功している有名クリエイターのエピソードの一つです。しかし、このようなささいなエピソードに売れるためのヒントが必ず隠れているのです。