こんにちは。砂田です。
過去2回にわたり、クリエイターのスタンスなどについての体験談を紹介してまいりました。前回のコラムでは、自分を安売りしないために、信頼できる同業者の輪をつなげていくことに触れましたね。
しかし、世の中には「一見信頼できそうだが、関わるとろくなことがないクリエイター」という人種が存在します。彼らは下手をすると自分の創作活動はおろか、私生活まで脅かす存在になることがあります。
今回はその中でも、私が「セミナー型クリエイター」と名付けている人種について紹介します。彼らのターゲットは主に駆け出しの若いクリエイターです。「こういう人間もいるんだ」ということを頭の片隅に置いて、活動の参考にしていただければと思います。
クリエイターA氏の事例
近年、詩歌関係(和歌・俳句など)の作家の方々と交流する機会があり、私もその関連の集まりに顔を出すことがたびたびありました。詩歌の同人サークルなどに参加していると、自ずと交流範囲は広がっていきます。中には著名な作家の方も顔を出すこともあり、良い出会いも多々あります。しかし、ここに落とし穴があります。
今回紹介するA氏は、過去に一度、とある賞を受賞したことがあります。一般的な知名度が高いものではなく、受賞後の作家活動はあまり芳しくない様子。執筆だけで生活するのは難しいためか、他のジャンルにも幅を広げてマルチに活動しているようです。時折、若手の表現者を集めたイベントなども開催しているようです。
私は仲の良い友人に、たまたま誘われて行った飲み会でA氏に出会いました。詩歌関連を趣味とする若手の方々が多い中、彼は最年長でした。
彼の名前や活動内容を当時は知りませんでしたが、音楽も自主制作していると聞き、自分も昔プロ志向でバンド活動をしていたことを話してみました。すると彼は言ったのです。
「で、CD何枚売れたの?」
初対面とは思えない横柄な物言いをする人だなあと感じつつ、そこは大人の対応で軽く流し、今度は自分の敬愛するロックバンドの話をしてみました。すると今度は、
「でも彼ら、有名じゃないよね。」
(・・・FUJI ROCKの常連バンドで、ミュージシャンからの信頼が熱いバンドですけどねー!)という心の叫びを抑え、それ以上は話すのをやめました。
詩歌をたしなむ若者たちが、かなり年齢差のあるA氏と酒席を共にするのは何故なのか。過去の受賞作についての話題になると、A氏は先程の態度とは一変し、いきいきと楽しげに語りだし、若手の皆さんは賛辞の言葉を繰り返します。その様子に私は困惑し、その茶番を横目に酒を飲んでやりすごしました。
帰り道、誘ってくれた友人にA氏とのやりとりを話したところ、
「ああ、彼はああいう人だから・・・。自分よりクリエイティブなことをしている人とか、自分より物を知っている人が気に食わないみたいなんだよね。」
とのことでした。なるほど。A氏にはただ、無条件に自分をほめてくれる人たちが必要なのです。彼は他人の趣味や過去の活動についてなど微塵も興味がない。ただ「すごいですね~」の一言が欲しかったのでしょう。彼は自分を賞賛する人間だけを輪の中に取り込もうとする。さらに見ていた限り、大半は女性を取り込もうとしていました。友人も、このコミュニティの中にいるとどうしてもA氏に媚びてしまう自分に嫌気がさしていると語りました。
クリエイターA氏の化けの皮が剥がれた
そんな面倒くさい人間には関わるまいと思ったものの、その後の流れでA氏とTwitterでつながってしまったことが失敗でした。彼は一日中、自分の抱えている仕事の進捗状況をつぶやいているのです。しかも守秘義務違反にしか見えない。一般企業だったら即アウトなレベルです。フォロー・フォロワーとも1000人以上いる彼のTwitterは、仕事の状況と内輪話、そして彼を礼賛する言葉のリツイートばかり。彼の作品に対するマイナスな感想はエゴサーチして晒し上げ、フォロワーから「そんなことないですよ!先生の才能に嫉妬しているだけです!」といった同情の言葉を引き出す。これが執筆でお金をもらっている人の実態なのか、とますます呆れるばかりでした。
さすがの私も疑問に感じ、かつて出版関係の仕事をしていた父に、A氏のことを尋ねてみました。案の定、A氏は厄介者として有名でした。しかし、そんな実情も知らない若者たちが彼に群がっているのです。
そんなある日、事件は起こりました。例の友人と、そのさらに知人とのTwitterでのやりとりに、まったくの第三者であるA氏が突然割って入り、友人をこきおろしたのです。若手の中では珍しく自分に迎合しない友人の態度を、A氏は以前から不満に思っていたことは聞いていました。それがはっきりとわかるくらい、まったく不条理な言いがかりでした。しかも、何の事情も知らないはずの例の若手たちが援護射撃を始め、TLは友人への総攻撃状態となったのです。
友人をあまりにも不憫に思った私はフォローに入りました。すると、A氏からDMが届きました。ざっくり要約すると、「俺を誰だと思っているのか。先程の俺へのリプライは速攻削除しろ。でないとお前の社会的立場がやばくなるぞ」といった紛れもない脅迫が慇懃な口調で書かれていました。ドラマの悪役じゃあるまいし、ただのサラリーマンの私に何もできるはずがないんですが・・・(笑)
この時、友人にも同じような文面のDMが送られてきたそうです。
ついに本性を明かしたA氏ですが、法的にアウトな行為なのは明確であり、そもそもは彼の名誉毀損行為が問題だったわけです。私が返信でそれを指摘し、「場合によっては知り合いの法律事務所に相談する」と伝えるとDMは来なくなりましたが、しばらくの間Twitterで私と友人に対し、いわゆるエアリプを連投していました。それ以降、当然ながらA氏とは絶縁。友人も精神的に相当まいったらしく、これを機に絶縁しました。まったく不愉快な出来事でした。
「セミナー型クリエイター」を見極める方法と対処法
私がなぜ彼のような人間を「セミナー型クリエイター」と名付けたのか。
それは、同じようなやり方の悪徳商法やセミナーと手口が似ているからです。彼に限らず、似たような行動を取るクリエイターは、私の周りで思いつく限りでも数人います。まずは彼らの共通項をまとめてみましょう。
「セミナー型クリエイター」の特徴
- 飲み会や懇親会など、大人数を集めての行事を高い頻度で行う
- 最初は気さくに話しかけ、人当たりのいい大人の振る舞いをする
- 会話の中に何かと有名人と知り合いであることを織り交ぜる。「よかったら紹介するよ」などともいう
- 面倒見がよく、気に入った相手には無償でサービスをするが、その見返りがないと態度を豹変させる
- 自分のライバルになりそうな人間は最初から相手にしない(そのため同世代の仲間がいない)
- 自分に迎合しない人間は徹底的に排除する
などの行動がよく見られます。そして彼らは、「ハイハイ商法(別名:催眠商法)」という代表的な悪徳商法の業者の行動に似ているのです。wikipediaによると
無料プレゼントや安価な食料品や日用雑貨といった生活必需品の商品販売を餌に、高齢者や主婦などといった客を集め、その購買意欲を異常なまでに高めた上で、あたかも貴重な商品を安価に売っていると錯覚させて高価な(また市価よりも遥かに高い)商品を売り付ける商法である。
とあります。
上記①から⑥までの特徴を踏まえ、この商法の説明文のクリエイター版を作ってみます。
「同業者のつながり・知名度といった、クリエイターが売れるために魅力的に見えるコネを餌に、若手クリエイターを集め、その創造意欲を高めた上で、あたかも著名人と気軽に知り合えたと錯覚させて、主催者の知名度や好感度アップに都合よく貢献させる商法である。」
と言った具合でしょうか。両者に共通している結末は「主催者しか得をしない」ということです。
「セミナー型クリエイター」の類いは、前回のコラムの「○○万円でメジャーデビューできるよ」と持ちかけてくる人種とも同類です。彼らがちらつかせる人脈やコネは実態がありません。そもそもプロ意識の高い人間は、大切な人間関係を簡単に安売りしません。自分の大切な友人に、おかしな知り合いを紹介しないですよね。クリエイターの世界も同じです。
セミナー型クリエイターの見分け方
では、彼らのような人種を見分けるにはどうすればよいかのか。まずはA氏の行動を分析してみましょう。彼が見せた裏の顔の特徴をまとめてみます。
- 相手によって態度を変える
- 自分が知らないことを話題にすると不機嫌になる
- 周りを若手で固め、お山の大将状態である
- 過去の栄光にすがり、狭いコミュニティで権力をふりかざす
- 著名人と話したことを自慢げに語る(実際は酒の席にたまたまいたとかその程度)
- 仕事情報がだだ漏れである
- 自分に批判的な人間は排除する
- Twitter廃人である
これらの行動をプロ意識の高いクリエイターはまずしません。私の経験上ですが、彼らに一番よく見られる特徴は①②③④⑤が多いです。これは表の顔の時にも表れるので、参考にすると良いでしょう。
極論を言ってしまうと
「先輩風を吹かせるやつに、まずろくなやつはいない!」
と思っていただいて間違いはないでしょう。
万が一関わってしまった時にはどうするべきか
これまで述べてきたように、彼らの目的はあくまでも自分の好感度を上げるのが目的です。自分を崇め奉らない人間に用はありません。早い段階で見抜けたのなら、早々に関係を断ちましょう。間違ってもSNSでつながったりしてはいけません。もしつながった後に気づいたら、遠慮なくブロックやリムーブして結構です。
A氏ほど極端な例はまず稀だとは思いますが、言いがかりをつけられるようなことがあれば、こちらも強気で権力を振りかざしてください。私は実際に法律関係の友人がいたために、一発でノックアウトできました。彼らの脅しなど、自分の弱さにすぎません。それを隠すために、自分を強く見せてくれるフォロワーに、いつでもかばってもらえるようにしているだけです。
仮に彼らのコミュニティから抜けて、一時的に肩身が狭い思いをしたとしても、気にすることはありません。また別のコミュニティを探せばいいだけの話です。違和感を抱えたまま、閉鎖的なコミュニティにいたところで時間の無駄です。どうか怖がらずに次のステップに進んでください。A氏と関わりを断った友人は、違うコミュニティでいきいきと活動しています。
本当にプロ意識の高いクリエイターとは
前回の記事でも述べましたが、自分の作品を世に出すのは勇気がいります。プライドがズタズタになることなど日常茶飯事です。創作物が自分の手を離れたら、どんな解釈をされようと、受け止めなければいけません。自分の思うような評価が得られないからと言って、自分に賛同する人間ばかりを集めている人間は、ただの裸の王様です。まして、自分に不都合な意見を言う人間に対して圧力をかけるなど、ありえません。
人間関係は難しいので、誰しも失敗はあるかと思います。コネの安売り話に飛びつきたくなる時もあるでしょう。しかし、それは結果的に自分を安売りしているということを忘れないでください。
一時期、このようなクリエイターとのトラブルが続いたので、アクセサリーや雑貨の仕入れをしていた知人に相談をしたことがあります。
彼女は、
「人には人間関係の剪定時期があるんですよ。今がたまたまその時なんですよ。」
と言いました。
「人間関係の剪定時期・・・。いい言葉だな」
と思いました。
本当に信頼のおける人間関係というのは、そうそう簡単には構築されません。
一番大事な幹の部分が残っていれば、また新しく関係を広げていくことができるということを教えられた気がしました。
最後に、最近の二大音楽トピックで、これこそクリエイターの鏡だと感じたことを紹介します。
- X JAPAN主催のVISUAL JAPAN SUMMITの開催
- HI-STANDARDのニューシングル発売
この二つのトピックはA氏の裏の顔の特徴①から⑦の真逆を行くものだと感じました。
二つとも大きなニュースなので、詳細は割愛しますが、彼らのプロフェッショナルな姿勢はクリエイターの鑑と言えるでしょう。YOSHIKIはベテランから若手まで隔てなく取り立て、それぞれに敬意を表して素晴らしいステージを作り出していました。同じフィールドで活躍している人間に対して、常に対等な姿勢で現在も活躍していますね。
HI-STANDARDは16年ぶりの新曲を、告知を一切しないで発売するという前代未聞の偉業をやってのけました。しかも、関係者が誰一人情報をもらさなかったという奇跡。彼らの人望の厚さがあったからこそできた21世紀の大事件です。常に仕事の状況をだだ漏れにしているA氏とは対極です。
クリエイターは夢を与える仕事です。作品の持つワクワクをあたためて、最高の状態で受けとり側に手渡すのが本当のプロフェッショナルではないでしょうか。
今回は少し危険な事例を紹介しましたが、これからクリエイターでやっていこうとする皆さんには、最高のクリエイター仲間を見つけて活動をしていってほしいと思います。
おまけ
ロックバンド・Oasisのノエル・ギャラガーはよく他のアーティストをボロクソに言いますが、あれは「浜ちゃんに頭をしばかれる」みたいなお約束だと思っているので、逆に名誉なことなんだと勝手に解釈しています(笑)。