こんにちは、神乃木です。
今年は例大祭への申込みもしてみたりと、少しばかり多忙&記事少なめになってしまうかもしれませんが、このサイトは引き続き更新していく予定です。本年もよろしくお願いいたします。
さて、以前の記事(この曲を作るのに何が必要か、プラグインと金額と作例をズバリお教えします)でもお話したように、オーケストラ系だとか劇伴系だとか映画音楽系のドンスカ鳴っている曲というのは、作るのに物凄いお金がかかるようなイメージがあります。
そしてそのイメージはほぼ間違っていません。では、世の中でこの手のジャンルの曲を作っている人は、全員がクルマを買うほどの投資をしているのでしょうか? そんなことはありません。
映画音楽の世界でも、低予算には低予算の戦い方というものがあります。そんなわけで今回は、予算別に映画音楽でよく使われるプラグイン・サンプルパックの定番をご紹介していきたいと思います。
ひとくちに「映画音楽風」といっても色々な音楽があると思いますが、昨今の映画音楽はストリングス、管楽器などのオーケストラ楽器だけを鳴らすのではなく、パーカッションやシンセと融合したハイブリッドなサウンドが多くなっています。
今回はそんな「今風」の映画音楽を作ることをコンセプトに、プラグインを紹介していきたいと思います。
投資額小:とにかくお金がないけど作ってみたいと思う人向け
投資額が少ない場合には、楽器だけ最低限のものを、パーカッションは無料で済ませるが基本戦略になります。ここに挙げたものだけでも十分にそれらしい曲を作ることができる上、上位のプラグインを持っている人でも使えるプラグインはあると思うので、ぜひチェックしてみてください。
楽器
EastWest/Quantum Leap Symphonic Orchestra Silver($99)
まずはこちらの音源、通称QLSO Silverを買うことから始めてみます。ストリングスや管楽器のプラグインは無料以下ではかなり厳しい物が多いので、ここだけは最低限の投資ラインといえます。
リストプライスは$199ですが、East Westは年がら年中何かしらのセールをやっていることが多いため、$99として表記しています。
これを一本買っておくことで、理論上はフルオケを作ることだってできます。
なお、同様の製品にUVIのOrchestral Suiteが出ていますが、こちらは音のまとまりが良いものの、QLSO Silverに比べると音が繊細な傾向にあるため、映画音楽にはあまり向きません。
DAWに付属するプラグイン(X-Pand2、HALion Sonic、EXS24等)を使うことも検討できます。プラグインによっては十分に使えるクオリティなので、積極的に使っていきましょう。
パーカッション
パーカッションは、今風の映画音楽を作る上で非常に重要な要素です。低音域、中音域、高音域のどれか1つが欠けているとどうしても物足りないものになるので、3つとも選んでみたいと思います。
低音域:Epic Battle by RADO Records($12)
迫力ある映画音楽には迫力ある低音のパーカッションが必要です。12ドルと値段はついていますが、840MBのサンプルパックが12ドルはかなり安い部類なのではないでしょうか。
中音域:Free Taiko Drum Rack(無料)
中音域は和太鼓を使うことが多いです。和太鼓の音はFreesounds.orgなどでも多く見つけることができますが、こちらはライブラリとしてまとまっていて品質が高いです。サイト内にデモもあるので聞いてみましょう。
高音域①:World Sounds DELUXE SETのフリー版(無料)
こちらは有償サンプルパック(World Sounds DELUXE SET)のフリー版として配布されているサンプルパックです。高音域の味付けにもってこいな金物などのサウンドが多く収録されています。
高音域②:Kong Audioのフリーループ素材(無料)
製品サイト(Kong Audio)……Free Raw SamplesのDownloadをクリック
こちらは中国の有名デベロッパーKong Audioが提供しているサンプルパックです。中国らしく派手な音の鳴る金物が多く収録されています。ループ素材になっているので、楽曲のバックで鳴らしてあげることでオリエンタルな感じが出てくるでしょう。
シンセ・ハイブリッド音源
Impact Soundworks Cinematic Synthetic Drums(無料)
こちらも無料で配布されているプラグインです。タイトルからシンセドラムのキットかと思いますが、そんなことはありません。「Cinematic」と謳っているだけあって、映画でよくある演出のサウンドが多く収録されています。特にDrop(Boom)系のサウンド(低音がブーンと下がっていくアレです)は非常に有用ですので、ぜひダウンロードしておきましょう。
Massive Evolutions 2(無料)
Kontakt(製品版、Player不可)が必要ではあるものの、プラグイン自体は無償で配布されているシンセ音源です。Dubstepなどに使える攻撃的な音色が多く収録されているため、映画音楽と合わせても遜色なく使えるはずです。
投資額中:コストパフォーマンスに優れるバランスタイプ
では次に、ミドルレンジのプラグインを見ていきます。この場合の投資戦略は、楽器に資本を集中投下しつつ、パーカッションは「投資額小」+αのものだけを使うというものになります。
楽器
総合音源:Project SAM Orchestral Essentials 1
絶大な人気を誇るSymphobiaシリーズのデベロッパー、ProjectSAMが出しているオーケストラ総合音源です。オーケストラで使われる様々な楽器が一通り収録されているのに加え、ヒット、効果音、パーカッションなども充実しているため、映画音楽寄りのオーケストラを作るのであればマストバイといっても過言ではありません。
QLSOを買わずにOE1を買うことも十分選択肢に入ってきますが、OE1にはオーケストラチャイムが入っていないため、Versilian Studiosのオーケストラチャイム音源($10)などを追加で買っておくといいでしょう。
ストリングス音源:Cinematic Strings 2($399)
この予算でのストリングス音源は本当に悩むところですが、ここではCinematic Strings 2を挙げたいと思います。CS2を選ぶ理由は以下の通り。
- 駆け上がり・駆け下がりを始め、レガート、スタッカート等の基本奏法が網羅されており、表現力も高い
- UIが使いやすく、出音にも変な癖が少ない、パッチをたくさん読み込む必要がない
- 発売されてからそれなりの日数が経っており、概ね肯定的なレビューが多い
- 第二バイオリンが収録されている
- PRO、Vol.2・3などの拡張パックが出てきて出費がかさまない(非常に重要)
Cinematic Strings 2の業界での利用用途はもっぱらスケッチ用途です。「何だスケッチか……」と思うかもしれませんが、プロの間でもその使いやすさが評価されている証でもあります。スケッチならば音は微妙なのか? というと、もちろんそんなことはありません。デモを聴いてみれば分かる通り、十分すぎるだけの表現力をもっているといえます。
Cinematic Strings 2を推すにあたって他に検討したプロダクトは以下の通り。このあたりもそのうち記事にしてみようかと思います。
- Hollywood Strings……× 動作が重すぎて絶対にストレスが溜まる
- CineStrings……△ ビブラート等の表現力がCS2に劣る。駆け上がり系は別パック(RUNS)を追加購入
- String Ensemble……△ 発売からの日が浅い。若干音が細い?
- Cinematic Studio Strings……△ 出てから日が浅いためレビューが少ない。音が最初からウェット?
- LA Scoring Strings Lite……△ 出音の癖が強い
ブラス音源:CineBrass Core($399)
オーケストラ向けブラスといえばあらゆる人々が口を揃えてお勧めするのが、CineSamplesの「CineBrass」です。CineBrassはPROも出ているため厳密には単体製品ではありませんが、COREだけでも普通に使う分には困りません。
CineBrass Coreはレガートと短い音が数個ある程度ですが、アンサンブルで使用する分には十分な量です。金管音源といえばOrchestral ToolsやSpitfire Symphonic Brass等も有名ですが、両者ともそれなりのお値段がするため、ここではコストパフォーマンスが優秀なCineBrass Coreを選びました。
パーカッション
パーカッションは前述の通り、ループ素材を中心とした編成のコスト重視でいきます。ただし、CineSamplesのDrums of Warだけは非常に使えるプラグインであるため(現場でもしばしば使われる模様)、ここではセレクトしています。好みに合うものを揃えてみましょう。
低音域:PrimeLoops Cinematic Impacts Volume 1 $21
様々なテンポに対応できるループ系のキットです。Epicなパーカッションと民族風のパーカッションが両方収録されています。ワンショットは少なめですが、楽器個別にループが作ってあるため、重ね合わせることでオリジナルのループを作ることが簡単になっています。
中音域:CineSamples Drums of War 1,2 $99 + $149
超定番のシネマティック・パーカッション音源です。実際に鳴らしてみると「そうそう、この音が欲しかった!」となることが請け合いのサウンド。ヒット、ロール共に収録されている上、Modwheelで強弱を自由にコントロールできるため、FX的な使い方も自由にできます。1がDeepで低音域多めのパーカッションなのに対し、2はDryで軽めの上モノが多めに収録されています。
高音域①:The Loop Loft World Percussion Loops $29
民族系の上モノが多めに収録されたサンプルパックです。こちらも「低音域」で紹介したPrimeLoopsのサンプルパック同様、ループに力を入れたサウンドになります。組み合わせることで、より深みのあるリズムトラックが作れると思います。
高音域②:BlueZone Corporation Ethnic Perc Loops $13
上モノが多いので便宜上「高音域」としましたが、低音・中音も結構充実したループ集です。ループの出来はいいのですが、若干収録数が少ないのが玉に瑕。こちらも、他のループと組み合わせて使う用途ですね。
シンセ・ハイブリッド音源
8dio Hybrid Tools Vol.1-Vol.3($249)
このクラスのシネマティックなシンセ系音源と言えば、絶対に外せないのが8dioのHybrid Toolsです。個人的な「買っても絶対に後悔しないプラグイン」五本の指に入るプラグインです。ラインナップは1から3まで分かれており、1は満遍なくさらった感じ、2はHit/Sweep/Riserに特化、3は正直何がしたかったのかよく分からないです。1か2、または1+2が正しい買い方です。特に2の出来はすばらしく、映画「バト◯シップ」で聞いたようなサウンドもたくさん入っています。
上記のループ集にHybrid Toolsをところどころ混ぜるだけで、かなりそれっぽいサウンドになること請け合いです。
投資額高:プロ・ハイアマチュア・泥沼向け
最後は、プロの方、お金に余裕がある方、泥沼にハマった方、音源メーカーを儲けさせたいと思える方などに向けたプラグインのご紹介。
プロはレコーディングを行うことが多いため、このクラスになってくるとプラグインとしての選択肢は意外と少なくなってきます。あと高い。
基本的には楽器のVienna+その他の8dioで固めていくことになります。高いプラグインを紹介してもしょうがないと思うので、ここでは3点だけ。
楽器
Vienna Symphonic Library (VSL) / Orchestral Strings Bundle 定価: €990
もはや説明不要、制作現場では10年以上前からド定番となっているVSLです。VSLも様々なプロダクトを出していますが、現在のストリングスとして使い勝手がいいのはこちらのようです。パーカッション・FX・シンセは時代の流れに合わせて変えていく人は多くいるものの、軸となる弦や管楽器はVSLで揃えている人も多いのではないでしょうか。
業界で定番とされる理由の一つは、その品質もさることながら、VSLのエンジンが安定性・パフォーマンス・UI等の面で優秀なことも挙げられますね。
今だとより高機能になった(そして重くなった)Dimension Stringsも出ているので、そちらを買ってみるのもいいかもしれません。
8dio Adagio Strings Bundle 定価: $1695(大体いつもセールで$600くらい)
こちらも説明不要ですね。VSLが綺麗めのオーケストラに強い一方、8dioの方は現代映画音楽の強いサウンドの中でも生き残ることができます。プラグイン自体の表現力は非常に高いものの、その表現力故に使いこなすのが難しいとも言われています。
個人的にはVSLよりも8dioの音のほうが好きです。Orchestral Strings Bundleにソロはありませんが(Dimension Stringsは有り)、8dioの方はソロ弦も収録されています。
※木管、金管については、予算が許す限りVSLをたくさん足していくのが定番のようです。
パーカッション
8DIO Epic Taiko Ensemble($199)
トレーラーとかでも非常によく聞く、Epicな和太鼓のプラグインです。ショット・ループどちらにも対応しており、楽曲の様々な場面で使うことができます。デモソングを聞いて頂ければ「あぁこれか」と納得するに違いありません。
この他でいうと、
- 8DIO The New Epic Frame Drum Ensembles($129)製品情報
- 8DIO Epic Dhol($99)製品情報
- 8DIO Epic Small Drum Ensembles($59)製品情報
あたりの8dio系パーカッションを揃えていくと良いでしょう。
さいごに
以上、フリーから高級品まで……ということで、映画音楽系に使えるプラグインを一挙紹介してみました。
映画音楽向けのプラグインというのは、あまり大きな市場ではありません。その上にレコーディングやエンジニアリングのコストも高く、プラグインの金額は青天井になってしまう傾向が多くあります。
したがってこの手のジャンルは、プロでない限り泥沼のジャンルだと個人的には思っています。とはいえ、ある程度やり方を考えれば(比較的)少ない投資で曲を作ることも出来るのも事実です。
高いプラグインを買えば良い音が出るのは確かなのですが、高くないプラグインでも技術とアイデアで十分戦っていくことは可能な筈です(戒め)。
泥沼ジャンルと毛嫌いせずに、Epicな曲を作ってくれる人が少しでも増えればいいなぁと思いました。