音楽制作というのは非常にお金のかかる活動です。
生演奏であれば楽器代がかかりますし、レコーディング代やスタジオ代も毎回結構な金額がかかってきます。
では、生演奏ではない、ただの打ち込み音楽であれば金額は安いのでしょうか?
残念ながらそんなことはありません。打ち込みの音楽でも、ソフトシンセ等の外部プラグインを使用して機能を拡張しないと、望み通りの音が出ないことがほとんどだからです。
今日は、とても生々しいお話をしようと思います。
まずは曲をお聴きください
今回は、去年の冬コミの新譜「蒼碧の翼(特設サイト)」で私が作ったタイトルソングである「蒼碧の翼」を題材に、各プラグインがどのくらいの金額なのか、解説してみます。
まずは以下のSoundCloudから再生してみてください。一曲丸上げしています。
曲中の各所で使用しているプラグインとその価格
ではさっそく、この曲の各所で使用されているプラグインについて解説をしていきます。
CineSamples CineStrings
出だしから流れる不気味な刻みをしているストリングスをはじめ、メロディ、バックと双方に大活躍しているのが、CineSamplesから発売されているCineStringsです。
このプラグイン、使い慣れるまでそれなりの練習が求められるのですが、ある程度使い方を覚えてしまえばかなりそれらしい音を出すことができます。
Cinematic Stringsではカバーしきれない質感を、聞き慣れたHollywood Stringsの音がしないことが決め手で、購入に踏み切りました。 本当は8dioのAdagioも欲しいのですが、値段が倍しますので……。
CineSamples CineBrass
48秒ぐらいから始まるホルン(+ユニゾンしているトロンボーン)、低音のチューバに使用しています。
このプラグインは、打ち込みで金管を作る場合の第一選択に上がってくるプラグインです。VIENNA系よりも気持ち強めの音が出せますが、ここは好みと財布の問題かと思います。
Hollywood Brassより割高になりますが、そもそもHollywood Brassはサンプリングの品質が非常に悪く、例えばトロンボーンの低音にもろにノイズが混じっていたりします。CineBrassではそんなことはありません。
CineSamples CineHarp
曲中の要所要所で左の方からグリッサンドしているのがハープの音ですね。ここではCineHarpを使用しています。
CineHarpは単音演奏モードとグリッサンドモードの二つがあり、グリッサンドモードでは多彩な長さと各キーで、ハープの構造に矛盾しないグリッサンドを弾いてくれるので非常に便利なプラグインです。
Synthogy Ivory Grand Pianos
言わずと知れた超有名ピアノプラグインですね。これの説明はほぼ必要ないかと思います。私はスタインウェイのピアノ(German Pianos)を主に使っています。
ただ、あまりにもあちこちで使われすぎている音であったり、マイクポジションが1つしかないせいで若干飽きてきたのも事実で、最近はVI Labから出ている別なシリーズを買ったりもしています。VI Labのピアノ音源はマイクポジションが豊富なので色々と楽しむことができます。
関連記事:VI Labsのピアノ音源「Ravenscroft 275」はかなりオススメ!レビュー・比較他
LASS First Chair
1:52付近から聞こえるバイオリンソロは、AudiobroのLA Scoring Strings First Chairを使用しています。フルセットは高い上にCineStringsとかぶるので、ソロに特化したLASS FCを購入しました。
ProjectSAM Symphobia1
Symphobiaシリーズは、ProjectSAMのフラッグシップ製品ともいえるシリーズで、古くから映画音楽界隈で使用されてきたプラグインです。全部で3パックあり、1が基本パック、2は拡張パック、3は民族音楽やニューエイジ系に特化したプラグインです。
私は基本パックの1しか持っていませんが、手軽に重厚な音が出せることから気に入って使用しています。
サウンドエフェクトも充実しており、イントロで低音が徐々に上がっていく弦の音、25秒付近で下がっていくトランペットの音、30秒付近で聞こえる電子音などは全てSymphobiaの音です。
今回の曲ではヒット系の音は後述のORCHETRAL ESSENTIALSとHybrid Toolsを使用しているので使っていませんが、超豪華版オケヒのような音も数多くあるので、この手の曲を作る人であればマストバイなプラグインといえるでしょう。
ProjectSAM ORCHESTRAL ESSENTIALS
こちらも同じくProjectSAMから。「Symphobia」シリーズの1〜2までの音を抜き出して、より汎用的なオーケストラが作れるようになっているプラグインです。
この曲では短めのHit(25秒付近で2回鳴る音で、ピアノの低音とセット)や、ティンパニ、グロッケンの音に使用されています。
reFX Nexus2
こちらはシンセプラグインです。基本的には電子音楽に強いプラグインですが、この曲でも17秒付近から流れるシンセループ(トランスゲート)に使用しています。
目立つ場所でいくと、2分10秒付近の中音域くらいで聞こえるトランスゲートでしょうか。
8dio Hybrid Tools 2
この手の曲を作るときに絶対に外せない音源その2が、近代的な劇伴にとても馴染むサウンドエフェクト系プラグインのHybrid Toolsです。全3シリーズ出ていますが、私は2のみ使用しています。
2ではHit系とFill系が充実しており、例えばイントロ後の16秒付近で入る響き渡るオーケストラドラムのフィルインはコレです。
また、Hit系でいうと25秒付近で入る低音の「ブォーッ」という音もコレです。深海棲艦の汽笛をイメージして使っている音ですね。映画「バトルシップ」でもこの音がよく聴けます。
Native Instruments ACTION STRIKES
コレ系の楽曲にグルーブ感を出していくなら必須のプラグインです。
イントロ後の16秒付近から、バックで僅かにループしているパーカッションがこのプラグインです。もっとわかりやすいところで言うと、2分13秒付近から徐々にフェードインしてくる太鼓の音がコレですね。
地味な音を出すプラグインですが、こういった音をバックに忍ばせておくとおかないとでは曲の完成度がだいぶ違ってくる印象を受けます。
なによりこのプラグイン、既にリズムループとして何パターンもプリセットがあるので、わざわざノートを打ち込まなくても単音鳴らすだけで音が聞こえるというとても省エネなプラグインです。
QL Symphonic Orchestra Gold
このプラグインも有名ですね。「オーケストラを作るならまずこれを買おう」とさえ言われています。East Westから出ているプラグインで、このプラグイン1つで一通りのオーケストラの音が出せます。価格も安い。
……とはいえ、やはり1つ1つの楽器の音を取っていくと他のプラグインに聴き劣りするのは明確で、最近ではこのプラグインの出番もめっきり減ってしまいました。
この曲で唯一使われているのがチューブラーベル(オーケストラチャイム)で、9秒付近で聞こえる「カーン」がそれです。
MusicLab RealGuitar
こちらも超有名ギター音源シリーズ。正直聞き慣れすぎたサウンドなので買い換えたいなとは思っているものの、使い慣れているのも事実なので結局使い続けています。
途中からストロークで聞こえるアコギの音がコレですね。
FXpantion BFD2
こちらも超有名ドラム音源。既に3が出ていますが、買い換えるメリットをあまり感じなかったので2のままです。
曲中では一般的なドラムとして聞こえてきますね。スネアドラムはインサートで後述のAltiverbを薄くかけて引っ込ませています。
IMPACT SOUND WORKS SHREDDAGE BASS
こちらは少しマイナーでしょうか。お安いベース音源です。安いですが、だいたいそれっぽく鳴ってくれるのと、スライドの音が充実しているため使っています。SpectrasonicsのTlylianを持っている人であれば不要だと思います。
Audio Ease Altiverb
この手の曲を作るときに忘れちゃいけないのが、奥ゆかしい空間を演出するリバーブプラグイン。
この曲をはじめ、私の最近の曲ではほぼすべてAltiverbを使用しています。リバーブなのに5-6万円近くする高価なプラグインですが、その収録数は凄まじく、往年のハードウェアリバーブから世界中の有名ホールのリバーブまで、様々なリバーブを収録しています。
この曲ではEMT250等を使用し、奥行きを出したいトラックはインサートで、それ以外はセンドで使用しています。
他にもエフェクト系やEQ系のプラグインを上げていくと数は増えるのですが、収拾がつかなくなるので一旦この辺にしておきましょう。だいぶ出揃いましたね。
各プラグインの気になるお値段は……!?
さて……ということで、各プラグインのお値段を列挙していきたいと思います。価格は基本ドルまたはユーロで、購入当時のセール価格・代理店価格の場合があります(一番古いもので2010年購入だったりするので、ご参考まで)
- CineSamples CineStrings CORE…………………506.9 USD
- CineSamples CineBrass CORE……………………251.26 EUR
- CineSamples CineHarp……………………………55.3 USD
- Synthogy Ivory Grand Pianos……………………26,075 JPY(国内購入)
- Audiobro LA Scoring Strings First Chair…………199.0USD
- ProjectSAM Symphobia 1…………………………381.65 USD
- ProjectSAM ORCHESTAL ESSENTIALS…………314.1 USD
- reFX Nexus2………………………………………210.07 EUR
- 8dio Hybrid Tools Vol.2……………………………194.35 USD
- Native Instruments ACTION STRIKES……………17,500 JPY(国内購入)
- QL Symphonic Orchestra Gold……………………247.50 USD
- MusicLab Real Guitar………………………………199.0 USD
- FXpantion BFD2……………………………………149.0 EUR
- IMPACT SOUND WORKSSHREDDAGE BASS……59.0 USD
- AudioEase Altiverb…………………………………423.2 USD
以上が今回のお会計です。まとめると、
- USD(米ドル購入)……2607 USD
- EUR(ユーロ購入)……610 EUR
- JPY(日本円購入)……43575 JPY
米ドルとユーロを、1ドル110円、1ユーロ120円で計算します。2048USD=286770JPY、610EUR=73200JPYです。
合計して、この曲の必須プラグインだけで40万3545円になりました。
ちなみに、実際にはもっと高い為替レートで買っていることもある上、Paypalやクレジットカードのレートは実際のレートよりも不利になることが多いので、実効値はもっと上のように思われます。
なぜこんなにお金がかかるのか
ここに挙げていないだけで、音楽制作にあたってはもっと沢山の投資があります。いわゆる「買ったけどハズレだった」プラグインもありますし、鍵盤、オーディオインターフェースやパワーユニット、スピーカー、ケーブル類への投資もありますね。
なにより、上記のようなプラグインを一台のマシンでいっせいに動かすためには、相当な性能のPCが必要です。私はMac Pro(Late2013)にメモリを32GBまで増設して使用していますが、これだけで約50万円します。
この手の投資をどんぶり勘定で見積もっても、音楽制作のために投資した金額は安くて150万、もしかすると200万近くは行っているのではないかと思われます。
もちろん、この手の投資は1回で終わりではなく、繰り返しプラグインを使うことはできます。曲作りを辞めないかぎりは使える資産です。でも、高い。
なぜこんなにお金がかかるのか?
その理由は、「もっと良い音を出したい!」という欲求に尽きます。浮かんだ曲を作る上で必要なものを揃えたらこうなった、という話です。
安いプラグインはどうしても安い音しか出ないことが多く、使い勝手が悪かったり、バグがあったりすることもよくあります。もちろん、Synth1のようにフリーなのに素晴らしいプラグインもあるのですが、それは少数派です。そして、安くて使えないプラグインをたくさん買うよりは、高くて使えるプラグインを1つ買えば済むこともたくさんあります。そんなわけでいろいろ買っていくと、それなりの金額になるのです。
……まぁ、もちろん自分の趣味の一環でやっていることなので自由意志ではあるのですが、にしてもやっぱり150万って高すぎませんかね……?
さいごに:お金をかけず、DTMを楽しもう
書いていて思いましたが、音楽制作で食っていくのならともかく、趣味でやるのに100万も200万もかけるというのは、正直あまり健全だとは思えません。
そしてなにより、もっと低予算でも良い曲を作っている人たちはたくさんいます。お金をかけたからといって良い曲が出来るわけでは決してないのです。
「この音を出したい、でも手持ちのプラグインではできない」ということが起きた時には、「本当にその音でないといけないのか?」を良く考えて、可能ならば手持ちのプラグインでどうにかする、曲の雰囲気を変えるなどの工夫をしていくべきだと思います。
あまりにもDTMにお金をかけすぎると、「これだけのお金がかかったのだから良い物を作らねば……」という強迫観念ともに曲を作ることになり、楽しみながら曲を作ることができなくなってしまいます。
自分が「趣味の範囲」で出せる金額はどのくらいなのかをよく考えて、お金をかけずにDTMを楽しむ方法を模索していくのが、細く長く音楽制作と付き合っていくコツなのではないでしょうか。
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