デジタル原稿の時代だからこそ伝えたい、アナログ原稿制作の魅力

ペン入れの様子(筆者撮影)

デジタル原稿とアナログ原稿の見分け方

ところで、漫画を読むときに「アナログ原稿」と「デジタル原稿」の違いについて考えたことはありますか?

私のような絵描きであれば間違いなく気にする部分ではあるのですが、もしかすると大多数の読者の方は気にしていないかもしれません。

昔はみんなアナログでしたが、最近はデジタル作画の作家さんが増えています。

「この原稿はデジタルで描かれたのか、アナログで描かれたのか?」

これは、いくつかのポイントを見ればだいたいわかったりします。

まず、「枠線」が最も簡単な部分です。

デジタルで引いた枠線は角が完全に直角になってるんですね。アナログは直角ではなく、少し丸みを帯びている。特に斜めコマ等の鋭角な部分を見るとわかりやすいです。

「スピード線」なんかも判断の基準になりますね。

デジタルでは全ての線が綺麗に引けますから、入りから抜き(線の始まりと終わり)までが途切れておらず、綺麗に仕上がっています。

ですが、アナログだとほとんどの場合、どこかに独特なかすれが入ります。

私はそのかすれも味があって好きなのですが、その、いわば「綺麗ではないところ」も見分けポイントになりますね。

あとはキャラクターの線の描き方ですね。

ペン入れの様子

ペン入れの様子。「元に戻す」は効かないので、緊張の連続です。

これは作家さんによって違うんですけど、デジタルの方は後でベタやトーンを貼るために「線を閉じたがる」んです。

対してアナログは、ベタもトーンも手動でやりますので、線を絶対に閉じる必要はないんです。ですから、境界線が切れている人が多い印象がありますね。

あとの細かい部分では、デジタル特有の入りと抜きのふにゃっとした線(ペンタブを空中で折り返すときに出来やすい微妙な折れ線)であるとか、効果音やキャラクターの周りの均一な白い縁など。アナログの方では、枠線やキャラクターからのトーンやベタのわずかなはみ出しなどですかね。

いろんなところに痕跡がありますので、ぜひ一度意識して探してみてください。

ただ、アナログとデジタルを併用されている方はすっごく分かりづらいですね……。

アナログ作画からデジタル作画への移り変わりで変わったこと

20年前であれば、ほぼ全ての漫画原稿はアナログ原稿であったといえます。

しかし今であれば、デジタル原稿がそれなりの割合を占めていることでしょう。なぜなら、アナログよりもデジタルの方が便利だからです。これは私も感じます。

たとえば、人物、家具、背景などの3Dモデルをガイドに重ねて描くことができたり、パースも「パース定規」をガイドにできたりと、本当に便利になってると思います。アナログでもトレスとかを使えばできないことはないですが、すごく手間がかかって面倒ですね……。

斜線も一本一本手描きです。結構しんどいです(苦笑)。

あとは、アナログ時代は練習しないと使えなかった技術が手軽に表現できてしまうことですね。具体的には、ベタフラッシュとかトーン削りとかです。

見栄えはすごくいいけれど、難しいし手間がかかるからなかなか多用できなかった。それがもうテンプレート的に入っていて、使いたいと思った箇所にワンタッチで入れることができる。これはすごいことだと思います。

ただ、1点「良くないかな」と思うところは、その効果などの「個性」がなくなってしまうんじゃないかなってことですかね。同じツールを同じように使えば完全に他人と同じ仕上がりになるのが、良くも悪くもデジタルの特徴だと思います。

デジタルにはないアナログの魅力

部分的にデジタルを使うこともあります。

私も、部分的にデジタルを使うことがあります。

デジタル化に伴い、面倒くさい作画作業や修正できないミスなど、アナログ特有の問題は大きく解消されつつあります。

デジタル化によって漫画業界全体のパフォーマンスが上がっているのは間違いないでしょう。特に、スピードが優先される商業漫画等ではデジタル化の恩恵は計り知れません。

そんな中、なぜ私はアナログで原稿を描くのか?

それは、原稿の「モノ」が残るということに大きな意義を感じているからです。

これまでいくつかの合同誌に参加させていただいたのですが、その際にはイベント会場にて、お礼も兼ねて主催者様に生原稿をプレゼントするようにしています。これは、結構喜ばれるんですよね。

理由は、アナログで描いている人が結構少なくなってきているので「珍しい」ということもありますが、やはり「1点もののプレミア感」っていうのが大きいと思いますね。この世にその原稿はひとつしかないわけですから。

同人イベントなんかでよくある、スケブや色紙とかが苦労なく描けるというのも強みですね。

私はアナログの人なのでその感覚はわからないのですが、デジタルから絵を始めた人の中には「アナログでは描けない」という人もいるみたいです。

「完成品を見てもらう」ことが主体のイベントではあるのですが、目の前でリアルタイムで絵が出来上がっていくというのを、紙とペンだけで見せることができるのは大きな魅力だと思います。

さいごに

以上が、私なりの「アナログ原稿」を描く理由でした。

もちろん、他の理由でアナログを描いている人、絶対にアナログで描きたくない人など、描き手によってのこだわりや考えはたくさんあると思います。

私も散々アナログ派を主張している一方で、デジタルに頼ってしまうことは多々ありますので、「デジタルとアナログのどっちが良いか?」という議論に、回答を出すことはできません。

しかし、特有のぬくもりだとか、人間らしさだとか、プレミア感だとか、そういった「アナログならではの良さ」というものを、私は自分なりに追求していきたいなと思っています。

今までデジタルだけで原稿を作っていた方には、ぜひ一度、試しにアナログ原稿づくりに挑戦してみてほしいです。慣れない作業なので最初は難しいかもしれませんが、きっと、アナログ独特の楽しさや達成感を感じていただけるのではないでしょうか。

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